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たまたま多摩に暮らしたら。

吹きっさらしにむき身さらして生きています。

直木賞はイコール阿刀田高。

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直木賞はイコール阿刀田高。

忘れもしない、小学3年生のある日の早朝。新聞を開いた父親がうれしそうに大きな声をあげました。

「そうか! 阿刀田高が獲ったか!」

第81回直木賞を阿刀田高さんが受賞したときのことです。父は朝食の最中ずっと、文学賞とは何か、直木賞とは何か、この賞を獲ると本はどれだけ売れるのかをまだ幼かったあたくしに熱く語って聞かせたのでした。

若い人にはこの状況が想像しにくいでしょうか。
もはや昭和は遠い昔、一般の人にとってニュースは24時間ではありませんでした。SNSどころかインターネットそのものがない時代の話です。
テレビニュースの開始時間よりも早くに家に届いた新聞。その紙面を開いて初めて知る出来事がとても多かったのです。「あのニュースはどうなったか」と気になれば、翌朝の新聞をまだかまだかと待ちわびていたのです。

(父は多忙で酒飲みで、家族と夜ご飯を一緒に食べられるのも大晦日と元旦の年2回だけというくらい毎夜帰りが遅かったから、前夜のテレビニュースを見逃してしまったのだろうと推測します。)

ちなみに当時、あたくしは父に頼んで自分用に小学生新聞をとってもらっていました。が、「連載小説が面白くない」といっては新聞社を代えて、最後は「小説しか読まないからもうとらなくていい」といって購読をやめてしまいました。自分から頼んだくせに本当にしようがない子です。

ハマった連載小説のタイトルはいまでも覚えています。『ザッツ・ハニワン』(笑)。埴輪が大きくなって正義のために悪と戦うというストーリです。なぜ埴輪? 理由があったはずですが、それは忘れました。なにせ子ども向けなので平和的解決が多かった。また埴輪のくせに妙にヒーロー感にあふれ、埴輪のくせに大きくなってかっこいい扱いをする描写が変に面白かった気がします。

埴輪なのにステキ!っておかしくない? このどうかしちゃってる感がよかったです。

あ、話がだいぶんそれました。それすぎ? 戻しましょう。

さて、直木賞というものを知った少女のあたくし、さっそく受賞作の『ナポレオン狂』を読んでみました。自分にも読めると思っていました。というのは短編(ショートショート)だったし、すでにナポレオンの伝記は読んでいましたから。

果たして、ちんぷんかんぷんでした。

いやちゃんと読んだ。読んだのですが理解することができなかったのです。読むと理解するは別のことです。そういう意味では、あたくしはこの作品を読んだが読めていなかったといえます。

「××狂」の感覚がよくわからなかったのです。何かにクレイジー(夢中)になって、その対象物を必死で集めていくコレクターのその感性は、小3はまだ9歳の自分のなかにまだ芽生えていないものでした。「ナポレオンに関するものがどうしても、どんなことをしてもほしいのだ!」という登場人物の気持ちは大人になるにつれてわかるようになったしだい。

読んだことのない人はぜひ読みましょう。ブラックユーモアの傑作です。楽しめること請け合い。

以後、あたくしにとって直木賞といえばイコール阿刀田高というくらい、この出来事は印象深いものとなり、阿刀田高さんは大好きな作家の一人となりました。そうしてナポレオン狂ではないけれど、阿刀田ワールドにのめり込み作品を集めてみたりして。

阿刀田高さんの何がすばらしいかというと(むろん、挙げればキリがないのですが)、「自分の手の内をあっさりと披露するところ」。本来ミステリを描く作家はその巧妙なトリックの立て方やヒントの得方を秘密にするものですが、阿刀田さんは違う。自身の得意とする、かいぎゃくと風刺の効いた短編はどう生まれるのか。その最高のノウハウを「こういうふうにするといいよ」とエッセイなどで惜しげもなく教えてくれるのです。

あふれんばかりの教養も同様です。ギリシア神話や落語などいろんな切り口で読み物を取り上げては、「ね、面白いでしょう?」とあたくしたち読者を大いに喜ばせるのです。何より書いているご本人が楽しそうなのも魅力です。

本当に本当に本が好きな方なのだなあと思います。その先にいる読者のことも本当に本当に好きなのでしょう。本が好きだから、本を通して純粋に人を喜ばせたい。その手段が小説やエッセイを書くという行為なのでしょう。真の本好きとはこういう人をいうのではないでしょうか。


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プロフィール

HN:
U子 yuko
性別:
女性
職業:
本づくりのお手伝いさん
自己紹介:
東京からひとり京都に越してきてのんびり暮らしています。生まれ変わったら歌のおねえさんになりたいです。→8年の年月を経て2020年6月、東京にのこのこと戻ってきました。

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